英語の名言

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“Who controls the past controls the future. Who controls the present controls the past.”
「過去を支配する者が未来を支配する。現在を支配する者が過去を支配する。」


ジョージ・オーウェル(George Orwell)のディストピア小説『1984年』(1949年刊行)の党のスローガン(Party slogan)の一つです。特に「真理省(Ministry of Truth)」が担う歴史改竄の核心を象徴する言葉です。

真理省の役割

主人公ウィンストン・スミスが働く部署で、新聞記事、書籍、統計、写真、記録など過去のすべてを書き換えるのが仕事です。

党が政策を変えたら、過去の記録も即座に修正され、「党は常に正しかった」ことにされます。修正された古い記録は「(党にとって)不用な情報を捨てる穴(memory hole)」と呼ばれるシュレッダーへ投げ込まれ、物理的にも消滅します。

このスローガンは、こうした行為の論理的根拠を端的に表しています。

本質的な意味

この言葉は因果関係の逆転を指摘しています。

普通、私たちは「過去が現在を決め、現在が未来を決める」と考えます。

しかし党は逆です。

現在を支配している者(=権力者)が、過去を自由に書き換えることで、人々の記憶・思考・価値観を支配し、結果として未来の可能性までも支配する。

つまり、過去をコントロール → 人々が「正しい歴史」を信じるようになる。

人々が信じる歴史が変わる → 現在に対する見方(何が許され、何が禁忌か)が変わる。

現在に対する見方が変わる → 未来の行動や期待が変わる。

これが完全な全体主義の論理です。客観的な「真実」など存在せず、権力が真実を定義するという世界観です。

オーウェルはこのスローガンで、スターリン主義ソ連やナチスドイツで見られた歴史の政治利用を強く批判しています。

ソ連ではスターリンが政敵を「過去から抹殺」し、写真から消すなど実際に行われました。

オーウェル自身がスペイン内戦で共産党による記録改竄を目の当たりにした経験が基になっています。

この一節は、小説全体のテーマである
「権力とは何を信じさせる力か」を最も凝縮した表現と言えます。

今日でもこの言葉は非常に重い意味を持ち続けています。

歴史教科書の記述問題

メディアやSNSを通じた過去の再解釈(キャンセルカルチャーも含む)

デジタル記録の改ざん可能性(AI生成画像・動画など)

勝者が歴史を書く(歴史は常に勝利者の視点で語られる)。

オーウェルが警告したのは、物理的な弾圧だけではなく、思考そのものを支配する危険性でした。このスローガンはその核心を突いています。

一言でまとめると

現在を握る権力が過去を書き換えることで、人々の現実認識を永遠に支配する。

それが完全なる全体主義の完成形である。

この言葉は、ただの小説の一節ではなく、権力の本質を問う、極めて鋭い政治哲学の命題なのです。


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